2002年 10月 04日
「バレエ組曲“Movin’ Out”全2幕」:"Movin' Out"
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日本の皆さん今晩は。
今週の新作ニュースは“Movin' Out”です。この作品、いろんな意味で、というか“Mamma Mia!"との比較において気になっている方、多いんじゃないですか?“Mamma Mia!"に対しては、あちこちのサイトで肯定派と否定派の意見がかわされてきましたからね。ABBAの次は、Billy Joelかというので否定派の皆さんは苦々しい思いをなさっているでしょうし、“Mamma Mia!"のようなショウが、今度はBilly Joelのヒット曲で観られるというので期待なさっている方もいるでしょう。しかも、いままで、どんなショウかの情報もほとんど入ってきませんでしたからね。では、本文をご覧下さい。
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最近のブロードウェイのミュージカルの一分野として、いろんな意味で話題になっているのが、ポップミュージシャンの曲を集めてひとつのショウにまとめ上げたものです。この手のショウを今語る上で、良かれ悪しかれ中心となるのが“Mamma Mia!”の大ヒットであることに異論のある人はいないでしょう。この作品のヒットは、同様なショウのプロデュースを誘発することになりました。今回僕が見た“Movin’ Out”はそれら「ポップ・ミュージシャン・ミュージカル」のトップを切って公演されるものです。聞くところではその他、Bruce SpringsteenやJohn Denverなどのショウが作られている最中とのことなので、Billy Joelの曲をフィーチャーした“Movin’ Out”が成功するかどうかは、今後同様なショウがブロードウェイの掛けられるかの試金石になるものと思われます。
そんなわけで、“Mamma Mia!”の成功を快く思っていない人達(日本にも少なからずいらっしゃるようですね)は“Movin’ Out”にも成功して欲しくないらしい。“Mamma Mia!”否定派の人は、あれがどうも安直な成功を求めてまんま(駄洒落じゃないです)とそれを手にしたのだとお考えのようです。つまり、懐かしいあのABBAの曲を並べ立てて、それを聴かせるためだけに強引にストーリーをでっち上げ、安っぽい芝居を見せて客を呼ぶということですね。70年代にABBAと共に青春を生きた世代がブロードウェイの主だった客層となっており、彼らは製作者の思う壺どおりに劇場に押しかけた結果というのがヒットの理由の説明です。僕は実は“Mamma Mia!”は結構肯定派です。このショウの客寄せのポイントがABBAのヒット曲であることは否定しませんが、そうして集まった客が大笑いして満足して帰っていき、後日に口コミで評判を広めていくというのには、もっと別の理由があると考えています。ですから、もし“Movin’ Out”の製作者が、Billy Joelのヒット曲をかっこよく聞かせれば客は満足するだろうと考えているならば痛い目にあうぞと思っていました。そういうわけで、今回僕はこのショウを最初から“Mamma Mia!”との比較で観るつもりでしたし、また、この機会に“Mamma Mia!”がミュージカルコメディとして成功した理由についても少し分析して、“Movin’ Out”と合わせてリポートしようと思っていました。でも僕のそういう思惑は見事にはずれとなりました。“Movin Out”は“Mamma Mia!”と全く別の種類のショウです。ですから、“Mamma Mia!”の話はまた別の機会にということで“Movin’ Out”について語らせていただきます。(「そのうちに書くネタ」のリストがまたまた増えてしまった。)
さて、“Movin’ Out”ですが、まず一番の特徴が台詞が全くないという事です。といっても“Les Miz”や“Phantom”のようにレシターブで曲と曲をつないでいくというわけでもありません。台詞そのものが全くないのです。じゃあ、曲をひたすらつなげていく、レヴューのようなショウかと言うとそうでもありません。レヴューではキャストメンバーは舞台の上で歌い踊りますが、このショウではキャストメンバーは一人を除いては全く歌いません。唯一歌うのがバンドリーダーであるMichael Cavanaughで、彼は舞台の上に組まれた自由に動くやぐらの上に展開するバンドの中央で、Billy Joelのようにピアノを弾きつつ、Joelのような声で全ての曲を一人で歌います。残りのキャストはその曲の内容に合わせてひたすら踊るだけ。それじゃあまるでダンスつきのコンサートじゃない、と思われるかも知れませんが、そうでもありません。メインとなるダンサーたちにはキャラクターが設定されており、ダンスを踊る中で展開されるストーリーもちゃんとあります。それってバレエのようなもの?と思われた方、正解です。このショウはロック・バレエとでも言うべきものです。
ストーリーはごく簡単なもの。1960年代のLong Islandに男3人、女2人の5人の若者がおりまして、彼らの内、BrendaとEddieはカップルだったけれとまさに破局を迎えたばかり、逆にJamesとJudyのカップルは結婚にゴールインします。BrendaはEddieと別れてから、もうひとりの仲間であるTonyと付き合い始めます。そんな彼らにもベトナム戦争の影は忍び寄り、男3人は徴兵されます。そして、2人の友人の目の前でJamesは殺され、Judyは若くして未亡人となります(以上一幕)。
このストーリーを物語るのが、Cavanaughが歌うBilly Joelのヒット曲と、Twyla Tharpの監督・振付によるバレエです。僕はダンスの分類には詳しくないので断言する自信はないのですが、このショウのダンスはほとんどがバレエをベースとしたものです。メインとなるキャストもバレエダンサーです(ABTのプリンシパルとかもいる)。振付の中身はとにかく激しい!よくもまあ、こんなアクロバティックなダンスを次々と踊り続けられるものです。なんという運動能力と体力!そんな風ですから、最初の30分ぐらいの間、僕は舞台の上で繰り広げられるスペクタクルを唖然としつつ見つめておりました。日本ではダンスミュージカルが人気があるようですが、バレエをたっぷり見たいという人には、このショウは堪えられないでしょう。
その素晴らしいバレエを間近(3列目のセンターだった)で見ながら、実は僕はその見事さに感心はしましたが、ジーンとくるような感動はおぼえませんでした。異論もあるとは思いますが、いいダンスを見て、美しいって思うことはあっても、それが感情的な揺さぶりにまで達することは、案外稀なような気がします。何しろ、感情に直接働きかける上で最も効果的な手段である、言葉を用いていないのですから。僕の経験でもミュージカルでダンスの場面で見事だとか凄いとかと思うことはしょっちゅうですが、思わず涙が出てくるような経験は覚えがありません。唯一の例外が“Carousel”のバレエだったかな。そんなわけで、“Movin’ Out”の感想もそんな感じになるだろうと思っていました。一幕の終わりまでは。
ところが、一流のダンサーたちにより、表現されたキャラクターたちの内面は、言葉が無かったにもかかわらず、僕に確実に伝わり、登場人物への感情移入の素地を作っていたようです。二幕は一幕と、全くといって良いほど違った経験となりました。ストーリーはEddieとTonyのベトナムからの帰還後を描きます。生き残ったとはいうものの、2人の心は傷つき、病み、Eddieは麻薬に溺れ、TonyはBrendaと以前のような関係を築くことができません。Eddieはある日、夢の中で忌まわしい過去を追体験します。そこで案内役として現れるのが自分が「見殺し」にした親友の妻、Judyです。これらのシーンを見ながら、自分でも意外だったのですが、僕はEddieやTony、さらにはBrendaやJudyへの感情移入している自分に気が付きました。こんなことはダンスミュージカルでは初めてです。“Fossie”を観たときでも、うまいとは思ったが感動はしなかったのに...。そして、TonyとBrendaが関係を取り戻し、さらにはJudyが夫を「見殺し」にしたEddieに何の恨みも持っていないことをしったEddieが心の平安を取り戻すというラストの場面では目がウルウルになってしまいました。同じように感じていたのは僕だけではなかったようで、カーテンコールでは総立ちとなりました。(ネタばらししやがってなんて言わないで下さいね。いま書いたことはプログラムにシノプシスとして載っているのです。ストーリー展開そのものは重要ではないと製作者も考えているのでしょう。)
さて、日本の皆さん、僕はこのショウ見る価値があるかと聞かれれば、あると答えられます。ただし、あなたが間違った期待を持たなければという条件つきです。もしあなたが、“Mamma Mia!”のように笑えて、ヒット曲が楽しめてというようなショウを望んでおられるなら、その期待は確実に裏切られます。これはいわば「ロックバレエ」であり、バレエを観にいくつもりで劇場に行ってください。料金分の価値はあると思いますよ。あ、でも、だからといってBilly Joelのヒット曲のオンパレードがだめというわけではありません。むしろ、このショウの最大のスターは全ての曲をひとりで歌うMichael Cavanaughです。特に1964年生まれで80年代に青春を過ごした僕にとって、Billy Joelの曲はまさにストライク・ゾーンで、音楽も堪能してきました。CDでたら多分買うでしょうね。
最後に、全曲1人で歌いずっぱり、しかも振付はとんでもない激しさときては、このショウは一日2回は出来ないようですね。マチネは歌手もメインのダンサーも総入れ替えです。まあ、レベルがはっきり落ちるというようなことは無いでしょうが、やはり、「レギュラー」メンバーで観たいですよね。夜の回にチケットをとるようおすすめします。
今週の新作ニュースは“Movin' Out”です。この作品、いろんな意味で、というか“Mamma Mia!"との比較において気になっている方、多いんじゃないですか?“Mamma Mia!"に対しては、あちこちのサイトで肯定派と否定派の意見がかわされてきましたからね。ABBAの次は、Billy Joelかというので否定派の皆さんは苦々しい思いをなさっているでしょうし、“Mamma Mia!"のようなショウが、今度はBilly Joelのヒット曲で観られるというので期待なさっている方もいるでしょう。しかも、いままで、どんなショウかの情報もほとんど入ってきませんでしたからね。では、本文をご覧下さい。
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最近のブロードウェイのミュージカルの一分野として、いろんな意味で話題になっているのが、ポップミュージシャンの曲を集めてひとつのショウにまとめ上げたものです。この手のショウを今語る上で、良かれ悪しかれ中心となるのが“Mamma Mia!”の大ヒットであることに異論のある人はいないでしょう。この作品のヒットは、同様なショウのプロデュースを誘発することになりました。今回僕が見た“Movin’ Out”はそれら「ポップ・ミュージシャン・ミュージカル」のトップを切って公演されるものです。聞くところではその他、Bruce SpringsteenやJohn Denverなどのショウが作られている最中とのことなので、Billy Joelの曲をフィーチャーした“Movin’ Out”が成功するかどうかは、今後同様なショウがブロードウェイの掛けられるかの試金石になるものと思われます。
そんなわけで、“Mamma Mia!”の成功を快く思っていない人達(日本にも少なからずいらっしゃるようですね)は“Movin’ Out”にも成功して欲しくないらしい。“Mamma Mia!”否定派の人は、あれがどうも安直な成功を求めてまんま(駄洒落じゃないです)とそれを手にしたのだとお考えのようです。つまり、懐かしいあのABBAの曲を並べ立てて、それを聴かせるためだけに強引にストーリーをでっち上げ、安っぽい芝居を見せて客を呼ぶということですね。70年代にABBAと共に青春を生きた世代がブロードウェイの主だった客層となっており、彼らは製作者の思う壺どおりに劇場に押しかけた結果というのがヒットの理由の説明です。僕は実は“Mamma Mia!”は結構肯定派です。このショウの客寄せのポイントがABBAのヒット曲であることは否定しませんが、そうして集まった客が大笑いして満足して帰っていき、後日に口コミで評判を広めていくというのには、もっと別の理由があると考えています。ですから、もし“Movin’ Out”の製作者が、Billy Joelのヒット曲をかっこよく聞かせれば客は満足するだろうと考えているならば痛い目にあうぞと思っていました。そういうわけで、今回僕はこのショウを最初から“Mamma Mia!”との比較で観るつもりでしたし、また、この機会に“Mamma Mia!”がミュージカルコメディとして成功した理由についても少し分析して、“Movin’ Out”と合わせてリポートしようと思っていました。でも僕のそういう思惑は見事にはずれとなりました。“Movin Out”は“Mamma Mia!”と全く別の種類のショウです。ですから、“Mamma Mia!”の話はまた別の機会にということで“Movin’ Out”について語らせていただきます。(「そのうちに書くネタ」のリストがまたまた増えてしまった。)
さて、“Movin’ Out”ですが、まず一番の特徴が台詞が全くないという事です。といっても“Les Miz”や“Phantom”のようにレシターブで曲と曲をつないでいくというわけでもありません。台詞そのものが全くないのです。じゃあ、曲をひたすらつなげていく、レヴューのようなショウかと言うとそうでもありません。レヴューではキャストメンバーは舞台の上で歌い踊りますが、このショウではキャストメンバーは一人を除いては全く歌いません。唯一歌うのがバンドリーダーであるMichael Cavanaughで、彼は舞台の上に組まれた自由に動くやぐらの上に展開するバンドの中央で、Billy Joelのようにピアノを弾きつつ、Joelのような声で全ての曲を一人で歌います。残りのキャストはその曲の内容に合わせてひたすら踊るだけ。それじゃあまるでダンスつきのコンサートじゃない、と思われるかも知れませんが、そうでもありません。メインとなるダンサーたちにはキャラクターが設定されており、ダンスを踊る中で展開されるストーリーもちゃんとあります。それってバレエのようなもの?と思われた方、正解です。このショウはロック・バレエとでも言うべきものです。
ストーリーはごく簡単なもの。1960年代のLong Islandに男3人、女2人の5人の若者がおりまして、彼らの内、BrendaとEddieはカップルだったけれとまさに破局を迎えたばかり、逆にJamesとJudyのカップルは結婚にゴールインします。BrendaはEddieと別れてから、もうひとりの仲間であるTonyと付き合い始めます。そんな彼らにもベトナム戦争の影は忍び寄り、男3人は徴兵されます。そして、2人の友人の目の前でJamesは殺され、Judyは若くして未亡人となります(以上一幕)。
このストーリーを物語るのが、Cavanaughが歌うBilly Joelのヒット曲と、Twyla Tharpの監督・振付によるバレエです。僕はダンスの分類には詳しくないので断言する自信はないのですが、このショウのダンスはほとんどがバレエをベースとしたものです。メインとなるキャストもバレエダンサーです(ABTのプリンシパルとかもいる)。振付の中身はとにかく激しい!よくもまあ、こんなアクロバティックなダンスを次々と踊り続けられるものです。なんという運動能力と体力!そんな風ですから、最初の30分ぐらいの間、僕は舞台の上で繰り広げられるスペクタクルを唖然としつつ見つめておりました。日本ではダンスミュージカルが人気があるようですが、バレエをたっぷり見たいという人には、このショウは堪えられないでしょう。
その素晴らしいバレエを間近(3列目のセンターだった)で見ながら、実は僕はその見事さに感心はしましたが、ジーンとくるような感動はおぼえませんでした。異論もあるとは思いますが、いいダンスを見て、美しいって思うことはあっても、それが感情的な揺さぶりにまで達することは、案外稀なような気がします。何しろ、感情に直接働きかける上で最も効果的な手段である、言葉を用いていないのですから。僕の経験でもミュージカルでダンスの場面で見事だとか凄いとかと思うことはしょっちゅうですが、思わず涙が出てくるような経験は覚えがありません。唯一の例外が“Carousel”のバレエだったかな。そんなわけで、“Movin’ Out”の感想もそんな感じになるだろうと思っていました。一幕の終わりまでは。
ところが、一流のダンサーたちにより、表現されたキャラクターたちの内面は、言葉が無かったにもかかわらず、僕に確実に伝わり、登場人物への感情移入の素地を作っていたようです。二幕は一幕と、全くといって良いほど違った経験となりました。ストーリーはEddieとTonyのベトナムからの帰還後を描きます。生き残ったとはいうものの、2人の心は傷つき、病み、Eddieは麻薬に溺れ、TonyはBrendaと以前のような関係を築くことができません。Eddieはある日、夢の中で忌まわしい過去を追体験します。そこで案内役として現れるのが自分が「見殺し」にした親友の妻、Judyです。これらのシーンを見ながら、自分でも意外だったのですが、僕はEddieやTony、さらにはBrendaやJudyへの感情移入している自分に気が付きました。こんなことはダンスミュージカルでは初めてです。“Fossie”を観たときでも、うまいとは思ったが感動はしなかったのに...。そして、TonyとBrendaが関係を取り戻し、さらにはJudyが夫を「見殺し」にしたEddieに何の恨みも持っていないことをしったEddieが心の平安を取り戻すというラストの場面では目がウルウルになってしまいました。同じように感じていたのは僕だけではなかったようで、カーテンコールでは総立ちとなりました。(ネタばらししやがってなんて言わないで下さいね。いま書いたことはプログラムにシノプシスとして載っているのです。ストーリー展開そのものは重要ではないと製作者も考えているのでしょう。)
さて、日本の皆さん、僕はこのショウ見る価値があるかと聞かれれば、あると答えられます。ただし、あなたが間違った期待を持たなければという条件つきです。もしあなたが、“Mamma Mia!”のように笑えて、ヒット曲が楽しめてというようなショウを望んでおられるなら、その期待は確実に裏切られます。これはいわば「ロックバレエ」であり、バレエを観にいくつもりで劇場に行ってください。料金分の価値はあると思いますよ。あ、でも、だからといってBilly Joelのヒット曲のオンパレードがだめというわけではありません。むしろ、このショウの最大のスターは全ての曲をひとりで歌うMichael Cavanaughです。特に1964年生まれで80年代に青春を過ごした僕にとって、Billy Joelの曲はまさにストライク・ゾーンで、音楽も堪能してきました。CDでたら多分買うでしょうね。
最後に、全曲1人で歌いずっぱり、しかも振付はとんでもない激しさときては、このショウは一日2回は出来ないようですね。マチネは歌手もメインのダンサーも総入れ替えです。まあ、レベルがはっきり落ちるというようなことは無いでしょうが、やはり、「レギュラー」メンバーで観たいですよね。夜の回にチケットをとるようおすすめします。
by sabrekitten
| 2002-10-04 00:00
| (Fake) Reviews